西洋では、アーカーシャ・クロニクは「宇宙の記憶きおく」として知られております。— かつて存在そんざいしたすべての知恵がたくわえられている場、として。— 神秘の世界のなかで、多くのことがかたられてまいりました。— けれども、ほとんどわれずに来たことがございます。— このお考えは、どこから生まれたのでしょうか。— 東アジアの古い伝統のなかに、それに呼応こおうするものはあるのでしょうか。

お答えは、はい、でございます。— そして、御名がございます。— 虚空蔵菩薩 虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ) — 限りなき虚空の菩薩さま。真言の伝統において、きせぬ知恵と、尽きせぬ慈悲をおまもりくださる御方でいらっしゃいます。— 御名のうちに、おかぎがございます。— 虚空 虚空(こくう)とは、「からの場、虚空、エーテル」 — まさにサンスクリットの アーカーシャと申すものでございます。

虚空蔵菩薩 · 平安時代後期の掛軸、東京国立博物館蔵、日本の国宝
虚空蔵菩薩 · 平安時代の掛軸 · 12世紀 · 東京国立博物館(日本国宝)、Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

アーカーシャと虚空 — 同じお言葉虚空

サンスクリットのお言葉アーカーシャとは、「場、エーテル」 — ほかの四元素のすべてに含まれる、第五の元素のことでございます。— ほかの四つが存在することをゆるす、場をおつくるお力。— 場なくしては、火もございません。場なくしては、水もございません。— アーカーシャは、すべての根でいらっしゃいます。

仏教の典籍てんせきがインドより中国を経て八世紀に日本へとお渡りになったとき、アーカーシャ虚空 虚空(こくう)とおやくされてまいりました。— 「空(から)の場」。真言の伝統において、これが五つの大いなる元素の第五 — (くう)、すべてをふくみ、とおす場 — となってまいったのでございます。

虚空蔵菩薩さまは、この場をたいしてくださる菩薩さまでいらっしゃいます。— その知恵は、「虚空のごとく限りなき」、— 虚空蔵 虚空蔵(こくうぞう)、文字どおり「空(から)の場のおくら」でいらっしゃいます。— 場そのもののお姿ではなく、— その場のうちに宿やどる知恵への通路を、おゆるしくださる御方でいらっしゃいます。

「アーカーシャ・クロニクは、西洋のお考えではございません。— サンスクリットのお考えでございます。— そして、真言の伝統は千年余りにわたり、それをおちでまいりました。— 虚空蔵菩薩さまが、そのお鍵でいらっしゃいます。— あらゆる知恵が宿る場を、おひらきくださる御方でございます。」 マーク・ホサック博士

空海さまと求聞持法求聞持法

空海さま — 真言宗の開祖かいそ — は、お若い時に、ご生涯を変える修法をなさいました。— 求聞持法 求聞持法(ぐもんじほう)、「たもつ知恵を求める」修法でございます。— 行ずる方が、虚空蔵菩薩さまの真言を百万回お唱えになる、きびしい修法でございます。— 何週間しゅうかん、あるいは何ヶ月にもわたって、おひとりで、しばしば山の上で、あるいは海辺のがけで。

空海さまは、この修法のうちに起こったことを、おしるしになりました。— 明星 明星(みょうじょう、金星) が、空海さまの口の中にお飛び込みになった、と。— その瞬間、空海さまには、虚空蔵菩薩さまの限りなき知恵がひらかれた、と。— かつてご覧になったことのないサンスクリットのおきょうを、おかいになることができました。— かつておりにならなかったことを、お記憶きおくになることができました。

この体験たいけんは、空海さまのご生涯のお転機てんきでございました。— このお導きにより、空海さまは唐へとお渡りになり、真言の完全かんぜんなる伝授をお受けになりました。— そして、これが、西洋で「アーカーシャ・クロニクへの通路」と申されるものの背景はいけいでございます。— ただし、真言の伝統には抽象的ちゅうしょうてきな「通路」はございません。— 具体的な菩薩さまをお相手にお願いする、具体的な修法がございます。

アーカーシャ・クロニクの本来のお姿記録

西洋の神秘の理解りかいのうちでは、アーカーシャ・クロニクはしばしば、宇宙の図書館としょかんのようにおえがかれてまいります。— 「たびをして」、「情報じょうほうき出す」場として。— これは、ひとつのたとえでございます。— そして、譬えにはどれも、かぎりがございます。

真言の伝統において、アーカーシャは場ではございません。— ひとつの性質せいしつでございます。— すべてをとおす、限りなき場のお性質でいらっしゃいます。— 旅をしてそこへゆくのではなく、— その性質のために、ご自身がお開きになるのでございます。— その違いは、根本のものでございます。— 情報を引き出すことではなく、心をひらいてまいり、知恵がとおるほどの場をおゆるしになることなのでございます。

虚空蔵菩薩さまは、この伝統において、本をお手渡しになる司書ししょではいらっしゃいません。— ご自身の心を、てしなくお広げくださる御方でいらっしゃいます。— これまでに気づきのうちに入らなかったことを、お感じになれるほどに。— 虚空蔵さまの実践は、派手はでな「超能力」を育てるのではございません。— お受け取りになるおちからを育ててまいります。— ふだんの心がおゆるすよりも、もっと多く聞き、もっと多く見、もっと多くかいすることのできるお力でございます。

真言の御視点してん

虚空蔵菩薩さまは、真言霊気のうちでは、伝授のひとつでございます。— 心の道のなかで、またふかめのもよおしのなかで、虚空蔵菩薩さまのお力に直の伝授をお受けになる機会きかいがございます。— この伝授は、真言、印、観想 — 三密の完全な実践 — をふくみ、この性質せいしつへの通路をひらいてまいります。

虚空蔵菩薩さまの実践実践

虚空蔵菩薩さまの実践は、その真言から始まってまいります。— ノウボウ アキャシャ キャラバヤ オン アリキャ マリ ボリ ソワカ。— この真言は、真言の伝統において千年余りにわたり唱えられてまいりました。— 高野山にて、京都の寺院にて、— そして、知恵と記憶をお求めになる方々のいらっしゃるすべてのところで。

日々の実践のうちに、瞑想の前にこの真言を唱えてまいることもできます。— しずけさにおはいりになる前に、心をひろげるために。— 創造的そうぞうてきなおはたらきの前に唱えてまいることもできます。— 論理ろんりを超えた洞察どうさつへの通路を必要となさるとき。— あるいはただ、日々の実践として唱え続けてまいり、何週間、何ヶ月にもわたって、何が変わってまいるかをお見つめになることもできます。

多くの方が、虚空蔵菩薩さまへの伝授ののち、お感じ方がよりひろがるご体験をおかちくださいます。— 派手ではないけれど、たしかにお感じになるかたちで。— ごゆめがよりあざやかに。— ご直観ちょっかんがよりするどく。— これまでかくれていたつながりが、ふと姿すがたあらわしてまいる。— 何かを「おになった」からではございません。— ご自身を、それにざしておくことを、おやすめになったからでございます。

マーク・ホサック博士、奈良の<ruby>東大寺<rt>とうだいじ</rt></ruby>の黄金の虚空蔵菩薩像のかたわらで
マーク、東大寺の虚空蔵菩薩さまのかたわらで · 奈良 · 千三百年の伝統のお姿すがた
虚空をひらいてまいる

虚空蔵菩薩さまへの伝授

真言霊気のなかには、虚空蔵菩薩さまのお力への直の伝授をお受けになる機会がございます。— その道を、静かにお運びくださいませ。

心の道 大日如来